グリース


2)グリース
2-1)  建設機械用グリースの概要

 グリースは“潤滑剤に増ちょう剤を混ぜて作った半固体または固体状の潤滑剤”と定義される物である。基油、増ちょう剤、添加剤の3成分から成り、これらの組み合わせにより種々の機械、部位の要求に合うグリースが開発・製造されている。建設機械の潤滑に対しても、グリースは重要な役割を果している。
 建設機械メーカが採用しているグリースを表1に示す。

区  分ちょう度番号増ちょう剤
汎用グリース2号(1号)Li基、Ca基
万能グリース2号(1号)Li基、Ca基
固体潤滑剤入グリース2号Li基(二硫化モリブデン)
クレーンブーム用グリース2号(1号)Li基(二硫化モリブデン)フッ素樹脂
耐熱型グリース2号複合Li基、ポリウエア基
生分解性グリース2号(1号)Li基、Ca基、ウレア
表1 建設機械メーカが採用している主なグリース

 グリース市場の約80%は2号グリースであり1号グリースが20%弱の使用割合といわれている。このなかで建設機械の工場出荷時の大半は2号グリースである。建設機械は汎用的なグリースの他に焼付を防止するために二硫化モリブデン入りやグラファイト入りのグリースを採用しているメーカもある。
 近年、地球環境問題が大きくクローズアップされ、建設機械業界も生分解性の油脂を採用しつつある。その一つに生分解性グリースがある。建設機械は河川工事を初めとして市街地区域、公園、ゴルフ場等直接、水、土に接する場が多く、その意味からも有害成分を含まず自然界に生息するバクテリアで分解される生分解性を有するグリースの要求がある。

2-1)-1 グリースの構造と成分

 (1)ベースオイル

 グリース成分の80%をしめ石油系潤滑油が用いられることが多く、スピンドル油、モータ油からシリンダ油程度までの粘度のものが使用目的に応じて用いられる。また特 殊用途には、合成潤滑油(エステル油、シリコン油等)が用いられている。

 (2)増ちょう剤

 ベースオイルをグリース状にかためる材料で5〜20%程度がその割合である。増ちょう剤は、せっけんと非せっけんに大別される。

1) せっけん系・・・Ca、Li、Na、Alなどが用いられる。せっけんは脂肪酸とアルカリ金属塩を反応させて作られている。
  • Caグリース:カップグリースと呼ばれ、耐水性が良いことが第一の特徴である。
    構造安定上少量の水分を含んでおり、使用温度が高いと水分が蒸発してグリースの網目構造が破壊され、高温ではせっけんと油が分離しやすい。
  • Liグリース:耐熱性と耐水性が優れ、万能グリースとして市場で最も多く使用されている。
  • Naグリース:繊維状構造でありファイバーグリースと呼ばれ、製造条件の制御により繊維が長く大きい物から小さい物まで製造できる。最大の欠点はNaせっけんが水に可溶なことであり、水と接触すると乳化するため水分のあるところでは使用できない。
  • Alグリース:外観がバター状〜あめ状できめ細かく滑らかである。高温での使用は適さないが、付着性が良いという特徴がある。


表2 石けん系グリースの要点

2) 非せっけん系・・・せっけん系グリースの限界を越える要求に対しては、ウレア、ベントナイト、シリカゲルなどがあり高温などの特殊用途に用いられている。


表3 非せっけん系グリースの要点

 (3)添加剤

  グリースの諸性能を改善、向上させるために各種の添加剤が使用されている。
  建設機械で良く使われているグリースの添加剤を揚げる。

1) 酸化防止剤・・・油が空気中の酸素と反応して劣化することを防ぐ。
2) 防錆剤・・・錆を防ぐ強化剤
3) 金属不活性化剤・腐食防止剤・・・一部の非金属はグリース、油等の酸化を助長する。そしてその金属がイオンとなって油中に飛び出してくる。これが腐食の原 因となるためこれを防止する。
4) 極圧剤・・・重荷重を受けるような潤滑部において、油膜が切れても金属に強く吸着したり金属と結合して摩耗を防ぐ。
5) 摩耗防止剤
6) 油性向上剤
7) 固体潤滑剤・・・耐焼付性、カジレを防ぐ。
 などがある。

2-1)-2 グリースの用途別分類

 グリースを分類する上で、グリースを構成する成分(ベースオイル、増ちょう剤、添加剤)で分類する方法と、JIS K 2220のように用途で分類する方法がある。(表4)
建設機械は用途分類カテゴリーに建機用グリース新たに設ける検討を進めている。

表4 JISによるグリースの用途別分類

2-1)-3  グリースの硬さ

 グリースの硬さを表す特性値がちょう度で潤滑油の粘度に相当すると考えて良い。
ちょう度範囲によりちょう度番号でグリースを分類する規格は、米国潤滑グリース協会(NLGI)により制定された。わが国のJIS規格もこれに従っている。(表5) ちょう度が小さいほどグリースは硬いことを示し、ちょう度番号は大きくなる。一般的に25℃に保ってから60回混和した直後の測定値(混和ちょう度)をいう。
建設機械ではグリースのちょう度は、ちょう度2号を主に各社リコメンドしている。


表5 グリースの硬軟

2-2) 建設機械用グリースの特徴

2-2)-1 建設機械に使用されるグリースの給脂ヶ所

  表6〜8は建設機械に頻度に使用されるグリースの給脂時間とその使用量を調査したものである。


    表6 3トンクラスミニショベルのグリース給脂ヶ所


    表7 20トンクラス油圧ショベルのグリース給脂ヶ所


    表8 10トンクラスホイルローダのグリース給脂ヶ所

2-2)-2  建設機械1台当たりの給脂グリースの使用量

  わが国の主要建設機械の保有台数は平成11年度の120万台をピークに平成13年度は108万台と減少傾向にある。平成13年度の内訳を見てみるとミニショベル:33.5万台、油圧ショベル:43万台、ブルドーザ:7万台、ホイルローダ:15.6万台である。表9に主要建設機械の充填量について記す。

 油圧ショベルミニショベルホイルローダブルドーザ
20Tクラス 3Tクラス10Tクラス10Tクラス
給脂使用量   g200〜250  100〜150200〜250200〜250
新車充填量   kg175〜65〜60.3〜0.5
年間平均稼働時間 hr800300800〜1000800〜1000
表9 1台当たりの給脂グリースの使用量

2-2)-3  グリースの劣化

  グリースは給脂個所に付着して潤滑する特徴を有し、液体の潤滑油のように発生熱や摩耗粉の除去作用がなく、適用速度限界は油潤滑より低くなる。グリースの劣化は化 学的要因と物理的要因の他に異物混入などの内的要因があり、これらをまとめたものが表10である。



表10 グリースの劣化原因とその影響

2-2)-4  異種グリース混合の可否

  建設機械メーカは機械の性能を最大限に発揮するためそれぞれ独自の純正グリースをリコメンドしている。グリースを給脂する場合、増ちょう剤(せっけん基)により本来 の性質からかけ離れた著しい変化を起こす場合があるので推奨された種類のものを使用することである。表11に混合の可否を記す。


石けん基 カルシウム ナトリウム アルミニウム バリウム リチウム
カルシウム
ナトリウム
アルミニウム
バリウム
リチウム
×
×
×
-
×
×
×
-
×
×
×
×
表11  異種グリース混合の可否

2-2)-5  建設機械用グリースのトラブル事例

  表12は建設機械に充填されたグリースのトラブルとその対応方法についての事例である。


表12  建設機械に充填されたグリースのトラブル事例

2-2)-6  建設機械に要求されるグリースの性能

  建設機械メーカの意見を集約すると以下の通りである。

(1) 極圧性が高いこと。
(2) 耐水性に優れグリースの流出がないこと。
(3) 高温時の保持性、耐熱性があること。
(4) フレッチングに防止性があること。
(5) 温度に対する粘度の変化が少ないこと。
(6) 他種グリースとの混和性が良いこと。

2-3)  生分解性グリース

 近年、地球環境問題が大きくクローズアップされ、地球環境保護に対する新たな取り組みが重要な課題となっている。建設機械では潤滑剤の分野での環境問題として機械部品か らの潤滑剤の漏洩・付着による環境汚染である。生分解性については「生分解性作動油」の項を参照。

2-3)-1  生分解性グリースの種類と品質

 生分解性グリースの基油はナタネ油、ヒマシ油などの植物油脂と合成の脂肪酸エステルがある。また増ちょう剤は植物油脂系でカルシウムせっけん、リチウムせっけん、ベント ナイトなどがあり、合成の脂肪酸エステル系ではリチウムせっけん、リチウムコンプレックス、ウエアがある。国内においてグリース全需要量6万トンのうち生分解性グリースは 数十トンであり、10数種の銘柄が現在販売されている。その主な用途としてはダムの水門の機械、水中作業機械の一部、牧草農業機械などがあげられる。建設機械でも既に一部 のメーカで純正グリースとして取り扱っており環境保護への取り組みも高まりつつある。
 植物油脂系グリースはエステル系に比べ耐熱性、グリース寿命が著しく劣り最高使用温度は80℃程度との報告もある。一方、各種ゴム材料への影響についは物理的要素に起因 することが多く添加剤による影響は少ないデータもある。特にエステル系のグリースはNBRに対する影響が大きくニトリル量の違いが硬さ変化、体積変化を悪化させる場合もあ る。このように基油、増ちょう剤などによる品質、性能のバラツキもあり建設機械用生分解性グリースとしての規格化が必要である。

2-3)-2  建設機械に使用される生分解性グリースの給脂箇所

 グリースの給脂箇所については2-2)-1項によるが生分解性グリースの場合、エンジン以外の足回りの部位である。建設機械では一部モニター試験を進めているメーカもある。た だ現状では生分解性グリースの使用規定を取り扱い説明書に明確に記載していないため販売量は極限られた状況にある。実際採用されている代表的なものに水中バックホウがある。

2-4)  油脂技術委員会の活動

 本委員会は油脂技術委員会に属し建設機械用グリースを共通化するための規格検討メンバーを平成14年12月に発足し活動を展開している。メンバーは油脂技術委員会の委員 とグリース元売メーカから成る。主な活動内容は以下の通りである。

2-4)-1 建設機械用グリースの規格検討(GX−1)

  グリースの分類は、グリースを構成する成分(ベースオイル、増ちょう剤、添加剤)で分類する方法と、JIS K 2220の用途で分類する方法がある。現在、各建設機械メー カは用途分類を基本にしているが必ずしもJISに当てはまってはいない。そこで本委員会ではカテゴリーに建設機械用グリースを新たに設ける検討を進めている。

2-4)-2 建設機械用生分解性グリースの規格検討(GX−2)

  建設機械用グリース(GX−1)の規格をもとに建設機械用生分解性グリースについて生分解性、環境毒性の規格検討を進めている。基本的な考え方は生分解性作動油規格 検討を基にグリースの必要な記述を追加検討している。また、適用箇所についても生分解性作動油に合わせた考え方を採用する。

【参考文献】
1) 渡辺誠一 (社)潤滑油協会、初心者にもよくわかるグリースの基礎知識と選定のポイント、機械設計40巻第18号(1996年12月号)
2) メンテナンス (1981年10月号No.17)技術評論社
3) 週間建機新報 NO.1267 建設機械新報社
4) 潤滑油ハンドブック 日本石油
5) 潤滑経済(1995年NO.354)潤滑通信社

以上