不整地運搬車の歴史


1-1 不整地運搬車の出現
写真1
  不整地運搬車は一般にダンプトラック等が入れない不整地、軟弱地などの現場で、圃場整備、河川改修、林道工事、土地造成などの土木工事や現場(写真1)での資材、機材運搬等に使用されている。最大積載量は、1t以下の小さなものから10tクラスの大型まで幅広く市場に存在しているが、主流は3tクラス以下の小型車である。
 本格的な土木工事用不整地運搬車が登場したのは昭和48年(1973)のことであり、最大積載量1tおよび2tクラスの鉄クローラ式であった。(写真2)
写真2

 基本的な構造こそ現在のものと変わりはないが、当時はエンジンからトランスミッションへの動力伝達はベルト、走行駆動は左右に独立したブレーキ(乾式ドラム)・クラッチ(爪式)を持つ機械式であった。
写真3
 また、軟弱地や湿地で使用される場合は接地圧を下げる必要があることから、一般的にブルドーザの三角シューと呼ばれる湿地用クローラ(写真3)も準備されていた。
 しかし鉄クローラでは舗装路面を傷つけてしまうことや、振動等の問題で走行速度にも限界があることから昭和53年(1978)から60年(1985)にかけて数多くのホイール式不整地運搬車が登場した。ホイール式の多くは最大積載量3t以下であったが、4輪、6輪、8輪等、その種類も多岐に渡った。(写真4)

様々なタイプのホイール式不整地運搬車
8輪スキッドステア 6輪スキッドステア 前輪ステア 4輪アーティキュレート
写真4

 ホイール式は舗装路面での機動性の高さが長所であるが、接地圧が高いため湿地や軟弱地における走破性は鉄クローラ式に劣る。そこで新たに開発・導入されたのがゴムクローラである。
 ゴムクローラそのものは昭和40年代から農業機械等に使用されていた。本格的な土木作業に耐えうる強度、耐久性を有したゴムクローラを装着した不整地運搬車が登場したのは昭和53年(1978)の八郎潟干拓事業においてである。(写真5)

写真5


 また、このころから運転座席を前後どちらにでも回転させることができ、どちら向きにも運転できるといった特徴を持つものも現れた。(同じく写真5)ゴムクローラが出現した当初は切断強度が課題であったが、信頼性が向上するにつれゴムの摩耗耐久性が課題となった。それも今日では大きく改善され車速の高速化も可能となり、10t以上の運搬車もほとんどがゴムクローラ式となっている。
 一方、ホイール式の不整地運搬車は平成元年(1989)以降、徐々に生産が少なくなり、現在では林業用のフォワーダーとして使用されている一部のものを除きほとんど見ることはできない。
 動力伝達方式としても当初は機械式駆動であったものが現在では油圧駆動(HST)が一般的となっており、小型は1ポンプ+1モータ+分配ギヤ、3t以上は2ポンプ+2モータ式が主流となっている。

1-2 最近の動向
 不整地運搬車は日本独自の作業車として発展をとげて来たが、平成2年(1990)前後より海外にも輸出され始めた。ホイールダンパーが主流である欧州において、フランス南部、スイス、オーストリアの山間部で資材運搬用としての需要が多い。また近年欧州で散発している天候異変による風水害などをきっかけに、湿地に強いクローラダンパーもその台数を伸ばしている。これに伴い欧州の安全基準を取り入れ、また国内での安全で快適な作業環境への要望とあいまって、国内でも転倒時保護構造(ROPS)を標準装備したものや、5t以上のクラスではキャブを標準装備するものが多くなった。
 また最近の動向としては、荷台を左右に90゜旋回させてダンプできるもの(写真6)や、荷台と運転席が360゜旋回可能で任意の方向にダンプできるようにしたもの(写真7)など、作業効率のアップと同時に車体方向転換の頻度を減らし路面やゴムシューの損傷を軽減する効果をねらった機種が登場している。
写真6 写真7