オイルの基礎知識・建設機械用の油脂1.概 要 世の中には様々な建設機械があり、それらに使われる油脂もまた、機械の特性、作業内容、環境条件等々に依って多くの種類を持ちます。ここでは、日本国内で一般的に使われている油脂を中心にご説明します。 2.建設機械用燃料 建設機械は経済性、及び高出力の要求からディーゼルエンジンが多く用いられています。搭載するエンジンメーカの推奨により多少の差違はありますが、外気温によっておおよそ下記のような使い分けをします。 ディーゼル軽油 JIS K2204に準拠 JIS 2号;外気温度範囲 −5℃以上 JIS 3号;外気温度範囲 −15℃〜10℃ JIS 特3号;外気温度範囲 −30℃〜0℃ 3.エンジン潤滑油 エンジンオイルについても、搭載エンジンメーカの推奨に基きますが、4サイクルディーゼルエンジンの場合、APIサービス分類のCD級が多用されています。使い分けは外気温度範囲により次の通りです。 SAE 40 ;外気温度範囲 30℃以上 SAE 30 ;外気温度範囲 −5℃〜40℃ SAE 10W-30;外気温度範囲 −30℃〜30℃ 4.減速機用潤滑油 旋回や走行用の減速機では、発熱度合い、面圧値にもよりますが、工業用の場合はISO VG 150〜220、自動車用はSAE 80W〜140が用いられます。耐久性及びコンパクトさの要求が進み、歯面強度に対する要求は厳しくなってきており、近年は極圧添加剤入りの高負荷用ギヤオイルが多用されるようになってきています。寸法、スペースの制約上、強制潤滑方式は採用しにくく、油浴式が一般的です。従って、冷却、焼付き防止のために定期的な交換をしています。 5.旋回輪用潤滑油 上部旋回体を駆動する旋回輪は、負荷によるラジアル方向、またはアキシャル方向の変位が大きく、シールの緊迫力が常時変化することや、また雨水の浸入しやすい部位であること等から耐漏洩性に優れたグリスが使用されます。機械の構造上、負荷が局部的に集中する場合が多いため、耐面圧性能の高い極圧添加剤入りの極圧グリースを用いる場合もあります。一般的には高温、潤滑不良は発生しにくい環境ですが、定期的に交換しないと疲労損傷、摩耗等の原因となります。グリスの交換は軌道面に通じる給脂栓から行ない、リリーフ栓またはシール面から滲み出させる構造が多く採用されています。 6.アタッチメント用潤滑油 アタッチメント用潤滑油としては、一般的に、耐熱性、耐水性、酸化安定性、等に優れたリチウム石けん系の極圧グリースが使用されています。特に極圧性、耐磨耗性が要求されるような部位には、二硫化モリブデン等の極圧添加剤を加えた極圧グリースを使用する場合もあります。最近では、油圧ショベル用として、あらかじめ潤滑剤を封入したブッシュを採用するなどし、グリースの給脂間隔を延長する工夫もされています。 一方、アタッチメント用グリスは、給脂時とか雨に流される等して機外へ放出される場合が多く、環境汚染問題からバイオグリースの研究・開発も盛んに行われ、既に実用化されています。通常のグリースの場合、一般に基油として鉱油が使用されていますが、生分解性が低いため一旦自然界に放出されるとなかなか分解されません。これに対し、バイオグリースは生分解性に優れた植物油や合成油を基油としており、自然界の微生物などによって容易に分解されるようになっています。極圧添加剤が配合されているものもあり、性能上のレベルは上がっていますが、種類によっては耐熱性、耐水性が劣るものもあり、注意が必要です。 7.油圧システム用作動油 油圧ポンプによって与えられた運動エネルギーを、コントロールバルブを介して各アクチュエータに伝達するための媒体として、作動油は建設機械にとって必要不可欠な存在です。作動油として一般的に使用されるのは、鉱物油系作動油です。これは、天然の原油から分留・精製した基油に酸化防止剤、防錆剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤、消泡剤などの添加剤を付加して、作動油に要求される特性を作り出したものです。 湖沼の近くなどで稼動する機械には、万一の油洩れに備えて生分解性作動油を使用する場合が有ります。特にヨーロッパでの使用例が多く有り、オランダ等では税制優遇措置を講じて使用を奨励しています。生分解性作動油には色々種類が有りますが、合成エステルを基油として上記添加剤を加えたものが現在主流になっています。 また、製鉄所内等の高温雰囲気で稼動する機械には難燃性作動油を使用する場合があります。難燃性作動油にも色々種類が有り、高含水系作動油が多く使用されています。しかし、シール剤の変更、最高油温の制限などが必要になり、機械にそのまま使用するという訳にはいかないのが実状です。 8. ドレンサイクル これら建設機械用油脂のうち、エンジンオイルは性能維持のため定期的な交換を推奨しています。ディーゼル油は高温下使用による劣化に加え、硫黄酸化物やススの混入により清浄性が低下していきます。またオイル自体が徐々に燃焼消費される為、定期的な補充も必要です。 排出ガス規制強化に伴いエンジン使用条件が過酷になることから、海外ではピストン堆積物による放熱阻害・摩耗促進防止を目的とし清浄分散性を向上させたグレード(CH-4)や更にクールドEGR対応グレード(CI-4)がAPIで制定されるなどニーズに合せた開発が進められています。 一方国内でも、独自のエンジン油規格(DH-1)及び低硫黄燃料の普及を視野に入れDPF装着・低硫黄燃料に対応したトラック・バス用(DH-2)・乗用車用(DL-1)ガイドラインがJASOにより制定・準備されています。アフターマーケットで様々なエンジンオイルが売られていますが、排出ガス規制適合性能の確保及びドレンサイクル延長の為には純正ないし各エンジン指定に適合したグレードのディーゼル油を使用する事が重要です。 同様に油圧作動油も高温・高圧で使用され油圧システム内を循環するので定期的な交換を推奨していますが、ドレンサイクルは機械の稼動条件や清浄度管理、作動油の種類により大きく異なります。やはり、純正ないし各機械の指定に適合した作動油を使用する事が油圧機器の損傷を防止する為にも重要です。 鉱物油系の中でも非Zn系添加剤を使用した作動油はロングライフ化が可能ですが、Zn系作動油との混用は本来の交換寿命が維持できなくなるので避けなければなりません。 生分解性作動油はその要求される性質上、安定性に限界があり苛酷な使用条件においては鉱物油系よりも短いドレンサイクルを設定する場合があります。 |